はじめてのBlenderアドオン開発

Last Update: 2023.3.1

Blender 2.7

はじめてのBlenderアドオン開発

Blender 2.7

Last Update: 2023.3.1

3-1. マウスクリックのイベントを扱う

Blenderには、オブジェクトモード時に3Dビューエリア上でSキーを押すと、マウス移動でオブジェクトのサイズを変更する機能があります。 この機能は、オブジェクトのサイズを手で入力して変更するのではなく、マウスの移動に応じて変更できるため、直感的で使いやすいと思いませんか? このように、インタラクティブ性の高い機能をアドオンで提供するためには、マウスのイベントを扱う必要があります。

作成するアドオンの仕様

マウスのイベントを扱う方法を理解するため、本節で作成するアドオンは次のようなマウスのイベント情報を利用した機能を持つものとします。

アドオンを作成する

1-5節 を参考にして以下のソースコードを入力し、ファイル名 sample_3_1.py として保存してください。

import bpy
import bmesh
from bpy.props import IntProperty, BoolProperty, PointerProperty


bl_info = {
    "name": "サンプル3-1: マウスの右クリックで面を削除する",
    "author": "Nutti",
    "version": (1, 0),
    "blender": (2, 75, 0),
    "location": "3Dビュー > プロパティパネル > マウスの右クリックで面を削除",
    "description": "マウスの右クリックで面を削除するアドオン",
    "warning": "",
    "support": "TESTING",
    "wiki_url": "",
    "tracker_url": "",
    "category": "Mesh"
}


# プロパティ
class DFRC_Properties(bpy.types.PropertyGroup):

    running = BoolProperty(
        name="動作中",
        description="削除処理が動作中か?",
        default=False
    )
    right_mouse_down = BoolProperty(
        name="右クリックされた状態",
        description="右クリックされた状態か?",
        default=False
    )
    deleted = BoolProperty(
        name="面が削除された状態",
        description="面が削除された状態か?",
        default=False
    )
    deleted_count = IntProperty(
        name="削除した面数",
        description="削除した面の数",
        default=0
    )


# マウスの右クリックで面を削除
class DeleteFaceByRClick(bpy.types.Operator):

    bl_idname = "mesh.delete_face_by_rclick"
    bl_label = "マウスの右クリックで面を削除"
    bl_description = "マウスの右クリックで面を削除します"

    def modal(self, context, event):
        props = context.scene.dfrc_props

        # 3Dビューの画面を更新
        if context.area:
            context.area.tag_redraw()

        # 起動していない場合は終了
        if props.running is False:
            return {'FINISHED'}

        # クリック状態を更新
        if event.type == 'RIGHTMOUSE':
            if event.value == 'PRESS':
                props.right_mouse_down = True
            elif event.value == 'RELEASE':
                props.right_mouse_down = False

        # 右クリックされた面を削除
        if props.right_mouse_down is True and props.deleted is False:
            # bmeshの構築
            obj = context.edit_object
            me = obj.data
            bm = bmesh.from_edit_mesh(me)
            # クリックされた面を選択
            loc = event.mouse_region_x, event.mouse_region_y
            ret = bpy.ops.view3d.select(location=loc)
            if ret == {'PASS_THROUGH'}:
                print("サンプル3-1: 選択範囲外です。")
                return {'PASS_THROUGH'}
            # 選択面を取得
            e = bm.select_history[-1]
            if not isinstance(e, bmesh.types.BMFace):
                bm.select_history.remove(e)
                print("サンプル3-1: 面以外を選択しました。")
                return {'PASS_THROUGH'}
            # 選択面を削除
            bm.select_history.remove(e)
            bmesh.ops.delete(bm, geom=[e], context=5)
            # bmeshの更新
            bmesh.update_edit_mesh(me, True)
            # 削除面数をカウントアップ
            props.deleted_count = props.deleted_count + 1
            # マウスクリック中に連続して面が削除されることを防ぐ
            props.deleted = True
            print("サンプル3-1: 面を削除しました。")

        # マウスがクリック状態から解除された時に、削除禁止状態を解除
        if props.right_mouse_down is False:
            props.deleted = False

        return {'PASS_THROUGH'}

    def invoke(self, context, event):
        props = context.scene.dfrc_props
        if context.area.type == 'VIEW_3D':
            # 開始ボタンが押された時の処理
            if props.running is False:
                props.running = True
                props.deleted = False
                props.right_mouse_down = False
                props.deleted_count = 0
                # modal処理クラスを追加
                context.window_manager.modal_handler_add(self)
                print("サンプル3-1: 削除処理を開始しました。")
                return {'RUNNING_MODAL'}
            # 終了ボタンが押された時の処理
            else:
                props.running = False
                self.report(
                    {'INFO'},
                    "サンプル3-1: %d個の面を削除しました。" % (props.deleted_count)
                )
                print("サンプル3-1: %d個の面を削除しました。" % (props.deleted_count))
                return {'FINISHED'}
        else:
            return {'CANCELLED'}


# UI
class OBJECT_PT_DFRC(bpy.types.Panel):

    bl_label = "マウスの右クリックで面を削除"
    bl_space_type = "VIEW_3D"
    bl_region_type = "UI"

    def draw(self, context):
        layout = self.layout
        props = context.scene.dfrc_props
        # 開始/停止ボタンを追加
        if props.running is False:
            layout.operator(
                DeleteFaceByRClick.bl_idname, text="開始", icon="PLAY"
            )
        else:
            layout.operator(
                DeleteFaceByRClick.bl_idname, text="終了", icon="PAUSE"
            )


def register():
    bpy.utils.register_module(__name__)
    sc = bpy.types.Scene
    sc.dfrc_props = PointerProperty(
        name="プロパティ",
        description="本アドオンで利用するプロパティ一覧",
        type=DFRC_Properties
    )
    print("サンプル3-1: アドオン「サンプル3-1」が有効化されました。")


def unregister():
    del bpy.types.Scene.dfrc_props
    bpy.utils.unregister_module(__name__)
    print("サンプル3-1: アドオン「サンプル3-1」が無効化されました。")


if __name__ == "__main__":
    register()

アドオンを使用する

アドオンを有効化する

1-5節 を参考にして作成したアドオンを有効化すると、コンソールウィンドウに次のような文字列が出力されます。

サンプル3-1: アドオン「サンプル3-1」が有効化されました。

[3Dビュー] エリア上で [N] キーを押してプロパティパネルを表示し、項目 [マウスの右クリックで面を削除] が追加されていることを確認します。

アドオンの機能を使用する

有効化したアドオンの機能を使い、動作を確認します。 マウスカーソルの位置やマウスのクリックなど、マウスからのイベント情報が使われていることを、確認してください。

1 [3Dビュー] エリア上でモードを [編集モード] に変更し、選択方法を面選択に変更します。
2 [3Dビュー] エリアのプロパティパネルにある項目 [マウスの右クリックで面を削除] に配置されている、[開始] ボタンをクリックします。
3 選択中のオブジェクトの任意の面にマウスカーソルを当てて [右クリック] すると、マウスカーソルを当てている面が削除されます。
4 [3Dビュー] エリアのプロパティパネルの項目 [マウスのクリックで面を削除] 上に配置されている [終了] ボタンをクリックして、処理を終了します。終了時に削除した面の数がスクリプト実行ログに表示されます。

アドオンを無効化する

1-5節 を参考に有効化したアドオンを無効化すると、コンソールウィンドウに以下の文字列が出力されます。

サンプル3-1: アドオン「サンプル3-1」が無効化されました。

ソースコードの解説

本節で紹介したアドオンのソースコードについて解説します。 サンプルのソースコードに関して、ポイントとなる点を次に示します。

アドオン内で利用するプロパティを定義する

本節のサンプルでは、オペレータクラス DeleteFaceByRClick と パネルクラス OBJECT_PT_DFRC が定義されており、これら2つのクラス間でデータを共有する必要があります。 本節のサンプルでは、アドオン内で共有するデータ全てを bpy.types.PropertyGroup クラスを継承したクラスのクラス変数として追加し、複数のクラス間でこれらのデータを共有します。

bpy.types.PropertyGroup クラスは、2-3節 で紹介したプロパティクラスをグループ化するためのクラスです。 bpy.types.PropertyGroup クラスを継承し、グループ化したいプロパティクラスをクラス変数に追加して使用します。 なお、定義したプロパティの参照方法は後述します。

# プロパティ
class DFRC_Properties(bpy.types.PropertyGroup):

    running = BoolProperty(
        name="動作中",
        description="削除処理が動作中か?",
        default=False
    )
    right_mouse_down = BoolProperty(
        name="右クリックされた状態",
        description="右クリックされた状態か?",
        default=False
    )
    deleted = BoolProperty(
        name="面が削除された状態",
        description="面が削除された状態か?",
        default=False
    )
    deleted_count = IntProperty(
        name="削除した面数",
        description="削除した面の数",
        default=0
    )

本節のサンプルにおいてグループ化したプロパティの一覧を次に示します。

プロパティ 意味
running 値が True の時にマウスを右クリックすると、マウスカーソルの位置にある面を削除する。
right_mouse_down 値が True の時は、マウスの右クリック中であることを示す。マウスを右クリックし続けた状態でマウスカーソルを移動した時に、他の面が削除できてしまう問題を解消するために使用する(後述)。
deleted 値が True の時は、右クリックにより面が削除された状態であることを示す。マウスを右クリックし続けた状態でマウスカーソルを移動した時に、他の面が削除できてしまう問題を解消するために使用する(後述)。
deleted_count running の値が True から False に変更されるまでに削除された面の数。

作成したプロパティグループ DFRC_Properties は、register 関数の処理内で PointerProperty クラスを利用して登録します。

sc.dfrc_props = PointerProperty(
    name="プロパティ",
    description="本アドオンで利用するプロパティ一覧",
    type=DFRC_Properties
)

アドオン有効時に、PointerProperty の引数 type にプロパティをグループ化したクラス DFRC_Properties を指定してインスタンスを生成し、bpy.types.Scene.dfrc_props 変数に代入します。 以降、各プロパティには bpy.types.Scene を通してアクセスすることができます。 例えば、プロパティ running にアクセスする場合は、bpy.types.Scene.dfrc_props.running とすることでアクセスすることができます。

アドオン無効時には、次のコードにより、追加したプロパティのグループを削除します。

del bpy.types.Scene.dfrc_props
本節のサンプルでは、bpy.types.PropertyGroup を使ってクラス間で共有するプロパティを定義しました。 ここで、2-9節 で説明したツール・シェルフへのプロパティ追加時にも、bpy.types.PropertyGroup を使えるのではないかと思うかもしれません。 しかし、layout.prop に指定するのが「プロパティ変数名の文字列」であることから、プロパティをグループ化すると正しく動作しません。 このため、プロパティをツール・シェルフやプロパティパネルに追加する場合は、bpy.types.PropertyGroup でグループ化せず、個別にプロパティを宣言する必要があります。 一方、プロパティをツール・シェルフやプロパティパネルに追加しない場合は、bpy.types.PropertyGroup を使ってプロパティをグループ化してもよいです。

UIを作成する

2-7節 までに紹介したサンプルは、アドオンの機能を実行するためのUIをメニューに追加するのみでしたが、処理の開始と終了のような排他的な項目をメニューに両方追加するのはUIとしてよいとは言えません。 そこで本節のサンプルでは、2-9節 で説明した方法を使って、[3Dビュー] エリアのプロパティパネルにオペレータクラス DeleteFaceByRClick の処理を開始または終了を切りかえるためのボタンを作成します。

プロパティパネルにボタンを追加するためには、2-8節 で説明したツールシェルフのタブに追加した方法と同様に bpy.types.Panel クラスを継承してパネルクラスを作成し、draw メソッド内でUIを定義します。

本節のサンプルでは、次に示すコードでクラス変数を追加します。 パネルクラスの各クラス変数の意味は、2-8節 を参照してください。

# UI
class OBJECT_PT_DFRC(bpy.types.Panel):

    bl_label = "マウスの右クリックで面を削除"
    bl_space_type = "VIEW_3D"
    bl_region_type = "UI"

続いて、UIの構築処理を定義する draw メソッドを作成します。

def draw(self, context):
    layout = self.layout
    props = context.scene.dfrc_props
    # 開始/停止ボタンを追加
    if props.running is False:
        layout.operator(
            DeleteFaceByRClick.bl_idname, text="開始", icon="PLAY"
        )
    else:
        layout.operator(
            DeleteFaceByRClick.bl_idname, text="終了", icon="PAUSE"
        )

draw メソッドに渡されてくる引数 context には、draw メソッドが呼ばれた時のコンテキスト情報が含まれています。 そして、context.scenebpy.types.Scene と同じものです。 このため register 関数内からは、context.scene.dfrc_props を利用することで bpy.types.Scene.dfrc_props に登録したアドオン内のプロパティグループ DFRC_Properties を参照することができます。

そして、DFRC_Properties クラスのクラス変数 context.scene.dfrc_props.running により、面の削除処理が実行中か否かを確認した上で、DeleteFaceByRClick の処理開始と処理終了のボタンを切り替えます。 DFRC_Properties クラスのクラス変数 runningFalse の場合は、削除処理が開始されていないため、[開始] ボタンを表示します。 runningTrue の時は、削除処理がすでに開始されている状態であるため、[終了] ボタンを表示します。

オペレータクラスの作成

最後に、オペレータクラス DeleteFaceByRClick を作成します。

本節のアドオンのオペレータクラスは、これまでのサンプルで作成したオペレータクラスに毎回定義していた execute メソッドが定義されていません。 その代わり、modal メソッドと invoke メソッドを定義します。 それぞれのメソッドについて説明します。

invokeメソッド

本節のサンプルでは、ボタンが押した時に処理を開始または終了する処理を invoke メソッドに記述します。 本節のサンプルにおける invoke メソッドの処理でポイントとなるのは、モーダルモードへの移行処理です。 モーダルモードとは、マウスやキーボードなどからイベントを受け取り続けるモードです。 モーダルモード時は、modal メソッドが {'FINISHED'} または {'CANCELLED'} を返すまで、context.window_manager.modal_handler_add 関数に指定したクラスの modal メソッドが継続して呼び出されます。

さて、本節の invoke メソッドに関する処理について説明します。

プロパティグループ DFRC_Propertiesinvoke メソッドの引数 context から取得する方法は、UIの作成で説明した方法と同様、context.scene.dfrc_props で取得することができます。 ここで取得したプロパティグループ DFRC_Properties のクラス変数 runningTrue の場合と False の場合とで、処理を変えます。

# 開始ボタンが押された時の処理
if props.running is False:
    props.running = True
    props.deleted = False
    props.right_mouse_down = False
    props.deleted_count = 0
    # modal処理クラスを追加
    context.window_manager.modal_handler_add(self)
    print("サンプル3-1: 削除処理を開始しました。")
    return {'RUNNING_MODAL'}

最初に、[開始] ボタンが押されたとき(props.running の値が False の状態でボタンが押されたとき)の処理について説明します。

面の削除処理中は、変数 props.running の値が True に設定されていなければならないため、変数 props.runningTrue に設定した後、DFRC_Properties の各クラス変数を初期値に設定します。 そして、context.window_manager.modal_handler_add 関数を実行してオペレータクラスを登録し、{'RUNNING_MODAL'} を返してモーダルモードへ移行します。

本節のアドオンでは、invoke メソッドと modal メソッドを同一のクラスで定義しているため、context.window_manager.modal_handler_add 関数の引数に自身のインスタンスである self を指定します。

# 終了ボタンが押された時の処理
else:
    props.running = False
    self.report(
        {'INFO'},
        "サンプル3-1: %d個の面を削除しました。" % (props.deleted_count)
    )
    print("サンプル3-1: %d個の面を削除しました。" % (props.deleted_count))
    return {'FINISHED'}

次に、[終了] ボタンが押されたとき(props.running の値が True の状態でボタンが押されたとき)の処理について説明します。

面の削除処理中でない場合は、変数 props.running の値が False に設定されていなければなりません。 このため、変数 props.runningFalse に設定します。そして、面の削除処理中に削除した面の数を出力します。

最後に invoke メソッドは、 {'FINISHED'} を返して処理を完了します。

modalメソッド

続いて、モーダルモード中に呼ばれる modal メソッドの処理について説明します。

# 3Dビューの画面を更新
if context.area:
    context.area.tag_redraw()

最初に context.area.tag_redraw 関数を実行し、[3Dビュー] エリアの画面を更新します。 これは、Blenderの画面更新処理が常に行われているわけではなく、視点変更などの特定のイベント時にしか行われないことへの対策です。 もしこの画面更新処理を行わない場合、modal 処理でオブジェクトに対して行った処理が直ちに反映されない、という現象が発生してしまいます。

context.area には modal メソッドが実行されているエリア情報が保存されています。 本節のサンプルでは、[開始] ボタンを押した時に呼ばれる invoke メソッドの処理の中でモーダルモードに移行するため、context.area には [3Dビュー] エリアのエリア情報が保存されています。 このため、context.area.tag_redraw 関数を実行することで、[3Dビュー] エリアを更新することができます。

# 起動していない場合は終了
if props.running is False:
    return {'FINISHED'}

続いて面の削除処理が終了している状態であるか否かを調べ、削除処理が終了していた場合はモーダルモードを終了します。サンプルでは、props.runningFalse である場合は面の削除処理が終了したことになるため、{'FINISHED'} を返して modal メソッドを終了し、モーダルモードを終了します。

# クリック状態を更新
if event.type == 'RIGHTMOUSE':
    if event.value == 'PRESS':
        props.right_mouse_down = True
    elif event.value == 'RELEASE':
        props.right_mouse_down = False

次に、modal メソッドの引数 event を用いて、マウスのクリックイベントを取得します。 event.type には発生したイベントの種類が識別子として保存されており、例えば、次のようにマウスやキーボードのイベントを取得することができます(他にもさまざまなイベントを取得することができます)。

値の意味
RIGHTMOUSE マウス右ボタン
LEFTMOUSE マウス左ボタン
A キーボードAキー
B キーボードBキー

event.value には、イベントの種類に対する発生したイベントの値が保存されています。例えば次のような値が event.value に設定されます。

値の意味
PRESS ボタンやキーが押された
RELEASE ボタンやキーが離された
# 右クリックされた面を削除
if props.right_mouse_down is True and props.deleted is False:

右クリックされ、面を削除できると判断する処理について、説明します。

面を削除できるか否かは、if props.right_mouse_down is True and props.deleted is False によって判断しています。 この処理には少し工夫しているので、詳しく説明します。

マウスが右クリックされたことを検出するためには、一見すると event.type'RIGHTMOUSE'event.value'PRESS' であることを判定するだけで問題ないように思えます。 しかし仮にこの方法でクリックを検出する場合、右クリックされている状態でマウスカーソルを動かすと、面を削除できてしまいます。 これは、本来期待する動作(右クリックを行った直後の1回だけ面を削除)とは異なります。 そこで、マウスを右クリックした後に1回でも面を削除した場合に Ture が設定される変数、props.deletedTrue である場合は、削除処理を行わないようにします。 なお props.right_mouse_down は、便宜的に右クリックしたことを示すための変数です。

# マウスがクリック状態から解除された時に、削除禁止状態を解除
if props.right_mouse_down is False:
    props.deleted = False

ちなみに、props.deletedTrue の間は面を削除することができないため、props.right_mouse_downFalse に変わった時に props.deletedFalse に戻すことで、再度右クリックされた時に面を削除できるような処理があることに注意してください。

続いて面を削除する処理について説明します。 面を削除するためには、削除対象の面が属するメッシュデータにアクセスする必要があります。

メッシュデータにアクセスするためには、bpy.data.meshes からアクセスする方法と bmesh モジュールを用いる方法があります。 本節のサンプルでは、bmesh モジュールを用いて面の削除処理を実装しています。

bmesh は比較的最近(バージョン2.63より)導入されたモジュールで、メッシュデータを簡単に扱う関数が数多く提供されています。 最近作成されているアドオンでは、bmesh を使ってメッシュデータにアクセスしている場合がほとんどですので、基本的に bmesh を使ってメッシュデータを扱うようにしましょう。 bmesh を利用するためには、次のように bmesh モジュールをインポートする必要があります。

import bmesh

インポートした bmesh モジュールを使って面を削除する処理について説明します。

# bmeshの構築
obj = context.edit_object
me = obj.data
bm = bmesh.from_edit_mesh(me)

メッシュデータにアクセスするためには、bmesh 用のメッシュデータを構築する必要があります。 bmesh 用のメッシュデータを構築するためには、編集中のオブジェクトデータ context.edit_object.databmesh.from_edit_mesh 関数の引数に渡す必要があります。 ここで、context.edit_object は編集中のオブジェクト情報を持つ変数で、data 変数によりオブジェクトのデータを取得することができます。 勘のよい方であれば気がつかれたかと思いますが、bmesh 用のメッシュデータを構築するためには [エディットモード] である必要があります。 仮に、[オブジェクトモード] で bmesh を構築しようとすると、エラーが発生して構築することができないことに注意が必要です。

次に、クリックされた面を削除する処理について説明します。 クリックされた面を削除するためには、次のような3段階の処理を行う必要があります。

  1. クリック時にマウスカーソルの位置にある面を選択
  2. 選択された面を取得
  3. 面を削除

1. クリック時にマウスカーソルの位置にある面を選択

# クリックされた面を選択
loc = event.mouse_region_x, event.mouse_region_y
ret = bpy.ops.view3d.select(location=loc)
if ret == {'PASS_THROUGH'}:
    print("サンプル3-1: 選択範囲外です。")
    return {'PASS_THROUGH'}

クリック時のマウスカーソルの位置は、modal メソッドの引数 event から取得できます。 サンプルでは、クリック時のマウスカーソルの [ウィンドウ] リージョンのリージョン座標が必要であるため、event のメンバ変数 event.mouse_region_x (X座標)と event.mouse_region_y (Y座標)から取得しています。 取得した座標は変数 loc に保存します。

次に面を選択するために bpy.ops.view3d.select 関数を呼び出します。 bpy.ops.view3d.select 関数の引数 location にマウスクリック時のウインドウリージョン座標 loc を指定することで、マウスカーソルの位置にある面を選択することができます。 もしマウスカーソルの位置に面が1つもなければ、bpy.ops.view3d.select 関数は {'PASS_THROUGH'} を返します。 このため、bpy.ops.view3d.select 関数の戻り値 ret{'PASS_THROUGH'} である場合は、マウスカーソルの位置に面がないことをコンソールウィンドウ出力したあとに処理を終了します。

2. 選択された面を取得

# 選択面を取得
e = bm.select_history[-1]
if not isinstance(e, bmesh.types.BMFace):
    bm.select_history.remove(e)
    print("サンプル3-1: 面以外を選択しました。")
    return {'PASS_THROUGH'}

選択された面を取得するために、bmesh の履歴情報を利用します。 bmesh には面・辺・頂点の選択履歴が保存されており、選択履歴の最後の要素を確認することで1で選択した面を取得することができます。 頂点・辺・面の選択履歴は bm.select_history に保存されていますが、頂点・辺・面の全ての選択履歴が混ざった状態で保存されていることに注意が必要です。 例えば、面を選択した後に辺を選択した場合、「面選択」→「辺選択」の順に選択履歴が保存されています。

1の処理の直後であるため、選択履歴の最後の要素が面であることは保証されていますが、念のために最後の選択履歴が面であるか否かを確認しています。 確認の結果、選択履歴の最後の要素が面でなければ {'PASS_THROUGH'} を返して処理を終了します。

3. 面を削除

クリック時にマウスの位置にある面を取得できたところで、いよいよ面を削除します。

# 選択面を削除
bm.select_history.remove(e)
bmesh.ops.delete(bm, geom=[e], context=5)

面は bmesh.ops.delete 関数で削除することができ、以下に示す引数を指定します。

引数 値の意味
第1引数 bmesh 用のメッシュデータ
geom 削除するデータ
context 削除するデータの種類

第1引数には bmesh 用のメッシュデータである bm 、引数 geom には2で取得した面のデータ、context に面データであることを示す 5 を指定しています。 context に数値を入力するのは少し違和感がありますが、今のところ数値を指定するしかないようです。 context に指定する値と値を指定した時の効果を調べてみましたので、参考にしてみてください。 数値ではわかりづらいので、いつか数値ではなく文字列で指定できるようになることを期待したいです。

効果
1 頂点を削除する
2 辺を削除する(辺を構成する頂点も削除する)
3 面を削除する(面を構成する頂点や辺は削除しない)
4 辺を削除する(辺を構成する頂点は削除しない)
5 面を削除する(面を構成する頂点や辺も削除する)
6 geom に面を指定した時は値に 3 を入力した時と同じ効果
辺を指定した時は値に 4 を入力した時と同じ効果
頂点を指定した時は値に 1 を入力した時と同じ効果
Blender本体のソースコードを参照することで、contextに指定する値を調べることができます。 対象となるソースコードは source/blender/bmesh/intern/bmesh_operator_api.h で、enum として値が定義されています。 頂点の削除であれば、DEL_VERTS = 1 と書かれています。 いずれにせよ、値を直に入力する方法は移植性が低いので、文字列などで入力できるようになることを期待します。

ここまでの処理で面を削除することができました。 しかし、ここで modal メソッドの処理を終了してしまうと、面の削除がメッシュに反映されないことに注意が必要です。

# bmeshの更新
bmesh.update_edit_mesh(me, True)

面を削除したことをメッシュに反映させるためには、bmesh.update_edit_mesh 関数を実行して面の削除をメッシュに反映する必要があります。 面の削除に限らず、bmesh 用のメッシュデータを更新した場合は必ず bmesh.update_edit_mesh 関数を実行して更新内容を反映するようにしましょう。

面の削除処理の説明はこれで終わりです。

# 削除面数をカウントアップ
props.deleted_count = props.deleted_count + 1
# マウスクリック中に連続して面が削除されることを防ぐ
props.deleted = True
print("サンプル3-1: 面を削除しました。")

最後に、削除した面数をカウントアップします。 そして、変数 props.deletedTrue に変更し、マウスが右クリックされた状態で連続して面が削除されないようにします。

そして modal メソッドは {'PASS_THROUGH'} を返します。 {'PASS_THROUGH'} を返すことで、イベントを本モーダル処理に閉じず、別の処理に対しても通知しながら modal メソッドの処理を続けることができます。 イベントを受け取り続けるのであれば {'RUNNING_MODAL'} でも問題なさそうですが、{'RUNNING_MODAL'} を返すと modal メソッド処理後にイベントが捨てられてしまい、マウスやキーボードからのイベントに対する他の処理が発生しなくなってしまいます。

{'PASS_THROUGH'}{'RUNNING_MODAL'} を理解するために、modal メソッドの return {'PASS_THROUGH'}return {'RUNNING_MODAL'} に変更してみましょう。 プロパティパネルから面の削除処理を実行した後にボタンを押すことができなくなり、処理を終えることができなくなります。 これにより、modal メソッドが 'RUNNING_MODAL' を返した時は、DeleteFaceByRClickmodal メソッドでイベントが捨てられ、他の処理へイベントが通知されていないことがわかります。

まとめ

本節では、マウスから発生したイベントを扱う方法を説明しました。 2章 で説明していない内容がたくさん出てきました。 特に invoke メソッドや modal メソッドは、メソッド内で処理が完結する execute メソッドとは動作が大きく異なるため、理解するまでに時間がかかるかと思います。 説明を聞いただけではわからないことも多いかと思いますので、何度か使ってみて実際に動作を確認してみてください。

マウスのイベントを扱うために覚えることは多いですが、マウスのイベントを利用することでインタラクティブ性の高い機能を実現することができますので、ぜひ積極的に活用していきましょう。

ポイント